「そばとも」はsusuROBO株式会社が開発したAI搭載の高齢者向けコンパニオンです。2021年から2026年にかけて、シンプルな音声のみのデバイスから、能動的な挨拶とジェスチャー認識が可能なマルチモーダルAIへと進化しました。
主な活用場面は2つです。在宅で一人暮らしをしている高齢者と、デイサービスセンターやサービス付き高齢者向け住宅などの介護施設の入居者です。いずれの場面でも目標は同じ——孤独感を和らげる、親しみやすく心温まるAIコンパニオンシップを提供することです。
本ケーススタディは、5年間にわたる実世界でのパイロット実証と国内展示会における製品の進化の歩みをたどるものです。「そばとも」(Sobatomo)という名称は、2026年2月のケアテックス'26において初めて公式に発表されました。本資料ではすべての開発フェーズを通じてこの名称を使用します。
音声のみのコンパニオン
プロジェクトは大阪府のAIDORアクセラレーションプログラム(メンタリングと体系的な開発支援を行う約5ヶ月間の早期段階テクノロジーベンチャー支援プログラム)の一環として始まりました。
最初のプロトタイプは音声メッセージング機能を備えたランプ型デバイスで、高齢者の自宅に自然になじむよう設計されました——スクリーンレスでシンプル、技術的な前提知識も不要です。特に一人暮らしの高齢者を念頭に置き、控えめで常時利用可能な存在として、日常生活を邪魔することなく会話の仲間を提供することを想定しました。
創業時の仮説:スマートフォンを使い慣れていないユーザーに対し、スクリーンレスデバイスが友人との交流促進の一助となる。
リビングラボ検証 — 高石市
2022年、音声メッセージングデバイスは大阪府高石市の健幸リビング・ラボ事業を通じて実証実験が行われました。このパイロットでは、高齢者にとっての使いやすさ、会話の活性化への効果、そして音声メッセージ端末を通じて仲間と交流することへの心理的な受容性が検証されました。
その結果、高齢者の方々はこの仕組みに前向きな反応を示し、音声のみで仲間とやり取りできる形式は、使いやすく、楽しめるものとして受け入れられました。
利用者の声
- 「私はLINEを使わないので、この端末で友だちと話せて楽しかったです。」
アバター型コンパニオン — 吹田市実証実験
2024年、本システムは音声対応アバターコンパニオンへと進化し、大阪府吹田市千里丘のウエリスオリーブ千里丘(NTT都市開発株式会社運営)にて咲洲テックラボプログラムの一環として実証実験が行われました。
それまでのランプ型端末に代わり、この段階ではタブレット上で動くアニメーションアバターが導入されました。表情や身ぶりが音声と連動する、より親しみやすく表現力のあるビジュアルキャラクターです。またこのときの機能は単なる会話にとどまらず、タクシーの予約や食堂メニューの確認といった生活支援機能にも広がっていました。
入居者の声
- 「かわいすぎて、ちょっと照れちゃいます。」
- 「アプリの代わりに、これを使いたいです。」
施設スタッフからは、アバターという形にしたことで入居者が自発的に話しかけやすくなり、職員が忙しい時間帯の支援にもつながるという声が聞かれました。 この結果は、声だけの存在から、姿を持ったAIの存在へと発展させた方向性の妥当性を裏づけるものとなりました。
CareTex'25 — 東京
このAIコンパニオンは、日本最大級の介護テクノロジー展示会の一つである「 CareTEX 2025(東京) 」に出展されました。会期中、介護施設の運営者の方々とじっくり対話を重ねる中で、いくつかの共通した課題意識が明らかになりました。具体的には、AIによるコミュニケーション支援への高い関心、深刻な人手不足への危機感、そして単に応答するだけでなく、AIの側から働きかけて会話を始めてくれる存在へのニーズが一貫して見られたのです。
スタッフの声
- 「利用者の皆さんの笑顔が、もっと増えたらうれしいです。」
デイサービスでの実証実験 — 群馬
2025年、本システムは群馬県伊勢崎市にある、社会福祉法人植竹会運営のゆたかデイサービスセンターに導入されました。デイサービスは、入居型施設とは大きく異なる環境です。施設内はよりにぎやかで慌ただしく、集団での活動が中心となる一方、スタッフは常に複数の業務を同時にこなしています。
そのような中で、AIコンパニオンは、スタッフの手が離せない時間帯に利用者のそばで会話相手となる存在として、実際のニーズを埋める役割を果たしました。 この実証を通じて、大きな可能性が見えてきました。一方で、同時に明らかになった課題もありました。それはシステムがまだ 基本的には受け身で、利用者から話しかけられるのを待つ設計になっていたという点です。つまり、自ら働きかけて会話を始めるところまでは十分に実現できていませんでした。
この課題認識が、その後の次の開発フェーズを直接形づくることになりました。
スタッフの声
- 「利用者様同士 の相槌や会話が増え、場の雰囲気が明るくなりました。」
- 「アバターとの対話によって利用者様の表情が柔らかくなり、笑顔や相槌が増加しました。」
- 「職員自身の話し相手としても活用できそうです(相談、愚痴、夜間残業時の対話など)」
CareTex'26 — 新たな名称とマルチモーダル機能
東京で開催されたCareTex'26 (2026年2月)において、本プロダクトは初めて「そばとも」という名称で正式に公開されました。この名前には、「傍にいる存在」を意味する「そば」と、「友だち・仲間」を意味する「とも」が込められており、いつも寄り添うコンパニオンでありたいという意図を表しています。
名称発表と同時に、これまでで最も進化したバージョンも披露されました。 それが、音声・映像・ジェスチャー認識を統合したマルチモーダル ソーシャルAIです。この段階で初めて、システムは周囲の状況を認識し、話しかけられるのを待つのではなく、自ら働きかけることが可能になりました。
「そばとも」は相手が近づいてきたことを検知して自動であいさつを始めたり、手を振るなどの簡単なジェスチャーを認識したり、会話の流れを保ちながらやり取りを続けたりすることができます。また、騒がしい環境下でも安定して動作するようになりました。このように、受け身で応答するツールから、社会的なふるまいができるコンパニオンへと進化したことは、展示会場でも多くの介護関係者の継続的な関心を集めました。
進化の軌跡
| 年 | 形態 |
|---|---|
| 2021 | AIDORアクセラレーター |
| 2022 | 健幸リビングラボ実証 |
| 2024 | 居住型施設実証実験 |
| 2025 | CareTex'25 |
| 2025 | デイサービス実証実験 |
| 2026 | CareTex'26 |
設計思想
低摩擦
これまでAIに触れたことのない高齢者の方でも、無理なく使えるように設計されています。 セットアップはシンプルで、使い慣れたハードウェアを前提とし、操作も自然な会話を中心にしています。 アプリのインストールも、アカウント作成も、特別な学習も必要ありません。
感情的な温かさ
「そばとも」が目指しているのは、生産性の向上だけではなく、安心感や寄り添いを生み出すことです。 アバターの表情や話し方のトーンに至るまで、あらゆる設計は効率性よりも感情的な心地よさや親しみやすさを重視して最適化されています。
置き換えではなく、介護を支える存在
スタッフの役割を置き換えるものではなく、介護を補い支える存在として設計されています。 人と人との関わりの合間にある静かな時間、つまり人のケアが届きにくい“すき間の時間”を埋めることで、周囲にある人間らしいケアの価値を損なうことなく支援します。
戦略的な位置付け
「そばとも」は、汎用的な音声アシスタントや固定的なサービスロボットとは異なり、 接近検知・自発的なあいさつ・ジェスチャー認識・会話の連続性をひとつのシステムとして統合し、介護現場向けに特化して設計されています。
このプロダクトは、高齢化が進む日本社会のために 生まれました。一人暮らしの高齢者のご自宅でも、また人手不足や生活音、集団活動といった現場特有の条件がある介護施設でも、しっかり機能するように設計されています。 つまり、頑丈で自発的に働きかけができ、感情面にも配慮したAIが求められる現場に向けた存在です。
まとめ
そばともは、2021年に大阪で生まれた 音声のみのランプ型プロトタイプから、2026年のマルチモーダルで社会性を備えたAIシステムへと進化してきました。 この5年間は、実際の現場導入を通じて改良を重ねてきた継続的な試行錯誤の歩みでもあります。
その進化は、リビングラボでの検証、居住型施設やデイサービスでの実証実験、さらに介護業界展示会でのフィードバックなど、現場で得られた学びの積み重ねによって支えられてきました。 それぞれのフェーズで得られた知見が、次の開発につながっています。
そばともはこれからも、感情を理解するような知性と社会的なふるまいを備えた対話を通じて、高齢者の孤独の軽減と介護支援のあり方をよりよいものへと磨き続けていきます。